先日、プジョー106S16の「もらい事故」とその修理に関するCAR LIFE BLOGを書いたところ、記事を読んで下さった方から「保険修理」に関する処理について教えて欲しいとの問い合わせを頂きました。
確かに、保険が絡むと処理が煩雑になり、特に消費税の考え方で悩むケースが多いですよね。
基本的な考え方(消費税法基本通達の整理)
まずは、保険金や損害賠償金に関する消費税法基本通達の内容を整理してみましょう。
<基通11-2-10(保険金等による資産の譲受け等)>
法第2条第1項第12号《課税仕入れの意義》に規定する「他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けること」(以下11-2-10において「資産の譲受け等」という。)が課税仕入れに該当するかどうかは、資産の譲受け等のために支出した金銭の源泉を問わないのであるから、保険金、補助金、損害賠償金等を資産の譲受け等に充てた場合であっても、その資産の譲受け等が課税仕入れに該当するときは、その課税仕入れにつき法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定が適用されるのであるから留意する。
この通達には、「課税仕入」になるか否かを判断する際にはお金の出所(でどころ)は関係ありません!ということが書かれています。
つまり、保険会社から補償された保険金を使ってクルマを修理した場合の修理代金などは、「課税仕入」になるということです。
<基通5-2-4(保険金、共済金等)>
保険金又は共済金(これらに準ずるものを含む。)は、保険事故の発生に伴い受けるものであるから、資産の譲渡等の対価に該当しないことに留意する。
この通達には、受け取った保険金などは「不課税売上」です!ということが書かれています。
つまり、保険会社から修理代金相当として受け取った保険金は「不課税売上」ということになります。
<基通5-2-5(損害賠償金)>
損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは、資産の譲渡等の対価に該当しないが、例えば、次に掲げる損害賠償金のように、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当することに留意する。
(1)損害を受けた棚卸資産等が加害者(加害者に代わって損害賠償金を支払う者を含む。以下5-2-5において同じ。)に引き渡される場合で、当該棚卸資産等がそのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できるときに当該加害者から当該棚卸資産等を所有する者が収受する損害賠償金
(2)無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金
(3)不動産等の明渡しの遅滞により加害者から賃貸人が収受する損害賠償金
この通達には、損害賠償金であっても「課税売上」に該当するケースもある!ということが書かれています。
しかし、今回の保険修理とは直接関係ありませんので、ここでの解説は割愛させて頂きます。
詳しくは、拙著『いまさら人に聞けない「中古車販売業」の経営・会計・税務』のP164[Q57 中古車販売店における損害賠償金にかかる消費税は]にて解説しておりますので、宜しければそちらもご覧下さい。
保険金を自分で受け取った場合
それでは、具体的な経理処理について考えてみましょう。
まずは、自らが保険会社から保険金を受け取って、修理代金を修理工場に支払うケースから。
このケースでは、前述の「基本的な考え方」に基づいて、1つ1つの取引を処理するだけなので、とてもシンプルです。
<保険金が入金されたとき>
普通預金 ××/雑収入××(不課税)
<修理代金を支払ったとき>
修繕費 ××(課税)/普通預金××
保険金が保険会社から修理工場に支払われた場合
次に、保険会社との対応を全て修理工場にお任せしていて、保険金が保険会社から修理工場に支払われるケースを見てみましょう。
自身のお金が一切動かないので…
処理なし
としてしまっている方が多いのではないでしょうか?
もちろん、「処理なし」でも間違いという訳ではないのですが、あくまでもお金の流れが自身を通過しないだけで、取引の流れとしては「保険金を自分で受け取った場合」と何ら違いはありません。
つまり、
修繕費 ××(課税)/雑収入××(不課税)
という仕訳処理を行うのが本来の処理となります。
お気付きですか?
ご覧のとおり、本来の処理というのは、仕入側が「課税」で、売上側が「不課税」となるので、「処理なし」としてしまうと、本来は「仕入税額控除」を受けることができるにも関わらず、それを放棄することになるのです。
なお、「仕入税額控除」を受けるためには所定の請求書等の保存が必要となるので、修理工場の請求書や保険会社の支払通知などは必ず取り寄せて、帳簿書類と一緒に保存しておくようにしましょう。
ただ、保険金額と実際の修理金額に差額が発生することもありますし、いわゆる〝悪徳〟と呼ばれる修理工場に当たってしまうと、書類の取り寄せに応じてくれないケースもあるようなので、業務用車両に係る保険修理の場合は、自身(事業者)に保険金を振込んでもらうことをオススメします。
以上、簡単にご説明しましたが、保険修理に係る処理は〝免責〟が絡んだり、解決まで期間を要したりと、複雑になるケースもございますので、気軽にお問い合わせ頂ければ個別に回答させて頂きます。
まぁ、1番良いのは「事故に遭わないこと」ですね。
–2022年6月15日追記————-
免責金額がある場合の処理については、下記記事もぜひご参考下さい。
こんばんは。
経理事務をやってて上司から言われて免責部分だけを課税処理しているのですが、なんか負に落ちなくて、それでも間違いではないのだろうなとは思うのですが、なんか負に落ちなくて。
書類を取り寄せて全額処理するのを割愛して処理を楽にしようということなんですかね?これが普通なんでしょうか?
kora 様
コメント有り難うございます。
仰るとおり、現在の処理は決して「間違い」では無いと思います。
ただ、きちんと書類などを取り寄せて処理をすることで、消費税の納税額を減らすことができる可能性があります。
実務においては、手間と税金メリットを天秤にかけて検討することは大切なことなので、kora様がお勤めの会社では、手間を減らすことを優先されているものと推測されます。
酒井
相手方のいる事故の場合の次の2パターンについて、車両修理費の仕入税額控除を受けれるかどうか、
また仕訳方法について教えてください。
1. 事故割合が0対100でこちらが「0」のときに発生した車両修理費を相手方の保険で負担された場合
2. 事故割合が100対0でこちらが「100」のときに発生した相手方の車両修理費をこちらの保険で負担
した場合
Toraさま
コメント有難うございます。
ご質問の件につきご案内いたします。
「1」のケースは、まさに記事中に書かせて頂いた内容ですので、修理費のエビデンス(請求書や領収書など)をきっちり保存することを条件に、私なら「修繕費(課税仕入)」と「雑収入(不課税)」の両建で処理します。
一方、「2」のケースは、「処理なし」で良いと思います。
あえて両建するのであれば、「雑損失(損害賠償金)/雑収入(損害保険金)」となりますが、いずれも「不課税」なので両建処理の意味はあまりありません。
あくまでも当方の見解となりますので、詳細は顧問税理士にご確認のうえ、処理して頂ければと存じます。
酒井
Toraさんの質問の「2」のケースですが、事故割合が100対0でこちらが「100」のときに発生した相手方の車両修理費の免責部分を修理業者に直接支払った場合、その免責部分については課税仕入となりますか?それとも損害賠償金として不課税でしょうか?
SFさま
コメント有難うございます。
ご質問のケースは、支払先が修理業者であったとしても「損害賠償金」として「不課税」になると当方は考えています。
あくまでも当方の見解となりますので、詳細は顧問税理士にご確認のうえ、処理して頂ければと存じます。
酒井
料金は掛かりますか?
成田さま
コメントありがとうございます。
コメント欄に記載可能な一般的なご質問には無料にて回答させて頂いておりますが、個別具体的なご相談については、原則として貴社の顧問税理士への問い合わせをお願いしております。
顧問契約が無い中での対応には限界がございますこと、ご理解ご了承下さいます様、お願い申し上げます。
酒井