自動車に限らず、商品を販売する事業者(いわゆる卸売業者や小売業者)にとって、必ず問題になるのが、「どのタイミングで売上を計上すべきか」という売上計上時期の論点です。
この論点は、在庫車両の取扱いに次いで、税務調査で争点になりやすい項目となりますので、税務の規定などもご紹介しながら、詳しくみていきたいと思います。
自動車販売業における売上計上時期の基本的な考え方
新車または中古車に関わらず、自動車販売業における車両販売時の大まかな流れは、
①契約
②登録
③納車
となる訳ですが、どのタイミングで売上を計上(収益を認識)すべきか、その答えを先にお教えします。
その答えは…
『どのタイミングでもOKです!!』
とは申しましても、守るべきルールも当然ございますので、順を追ってご説明していきたいと思います。
自動車ディーラーにおける新車販売の場合
自動車ディーラーが新車を販売する際の売上計上時期は、陸運局における車検登録時に売上を計上する「登録基準」を採用しているケースが殆どです。ごく稀に、消費者へ車両を納車したタイミングで売上を計上する「納車基準」を採用しているケースも見受けられますが、メーカー、ディーラーともに新車登録台数を業績指標とする業界慣行があるため、売上計上時期も「登録基準」を採用しているケースが多くなっているのです。
なお、メーカーにおける各ディーラーへの報奨金の算定基準や限定車の取り扱い台数を決定する基準についても、登録台数実績がベースとなるケースが一般的であることから、年度末はどこのディーラーも駆け込み販売と登録業務に大忙しとなっています。
売上計上時期の販売店基準と税務基準
自動車販売業における売上計上時期については、「どのタイミングでもOKです!!」と申し上げたとおり、基本的には販売店毎に設けた基準に基づいて処理して頂ければ問題ございません。
具体的には、下記のような感じですね。
1.中小規模な中古車販売店の場合
→ 自店が最も管理がしやすい計上方法を採用
2.ディーラーや大規模な中古車販売店の場合
→ 様々な会計基準に基づいた計上方法を採用
→ メーカーや親会社からの指導に従った計上方法を採用
しかし、税務上はこの売上の計上時期(収益の帰属時期)に関する一定のルールが設けられていて、販売店毎に設けた基準が無条件で認められる訳ではありません。
販売店側が管理しやすいからといって、メーカーからの指導に基づいていたからといって、税法で定められたルールに反していれば、税務調査で否認され、追徴課税されてしまう可能性があるということです。
税務で定められた売上計上時期のルール
自動車販売業における売上計上時期について、何となくの説明をしているサイトや書籍はあるものの、税務の規定に照らして解説された情報が少ない様なので、記事を書く側も記事を読む側も少し大変ですが、商品を販売する事業者が、売上をいつ計上すべきかについて、税務上で定められている内容に照らしながら解説していきたいと思います。
棚卸資産の販売による収益の帰属の時期
まずは、税務規定のご紹介から。
<法人税法基本通達2-1-1>
棚卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。
つまり、税務上では「商品の引き渡しがあった日に売上を計上しなさい」と規定されていま訳です。
では、その「引き渡しがあった日」とは一体いつなのでしょうか?
棚卸資産の引渡しの日の判定
こちらも、税務規定のご紹介から。
<法人税法基本通達2-1-2>
棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、例えば出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等、当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする。
ちょっと回りくどくて分かり辛い表現になっていますので、この引渡し日に関する規定について、着目すべきポイントを2つに絞ってご説明します。
1.着目ポイントその1
「棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日」
マンションを1棟丸ごと販売する場合と、チョコレートを1個だけ販売する場合では、同じルールを適用する訳にはいかないので、あくまでも販売する商品や販売方法に応じた適正な時期に売上を計上するようにと規定されている訳です。
自動車販売業に当てはめて考えますと、「①お客様と注文書を取り交わした契約日」、「②お客様名義への登録が完了した登録日」そして「③お客様へ車両を納車した納車日」のいずれであっても、自動車という商品特性と販売方法からみて合理的と考えることができます。
2.着目ポイントその2
「継続してその収益計上を行うこととしている日」
業績などに応じて頻繁に売上計上のタイミングを変更することは、粉飾決算や租税回避(いわゆる脱税)に繋がる恐れがありますので、一度採用した計上基準は、継続的に適用するようにと規定されている訳です。
結論:自動車販売業における売上計上時期
①契約日、②登録日または③納車日の中から販売店毎に管理しやすい売上計上時期を選んで、「継続的に」同じ方法を適用するという方法こそが、自動車販売業における売上計上時期の正しい採用方法となります。
いかがでしたでしょうか?
継続的に同じ方法を適用するという制限はあるものの、自動車販売業における売上計上は、販売店毎に管理しやすい計上時期を選んで良いという結論になりました。
もし、「これから開業するので、どの計上時期を選んだら良いのか分からない」といった方や「処理基準の見直しをしたい方が、どの計上時期を採用して良いのか判断に迷っている」といった方がいらっしゃいましたら、販売店の規模や経理状況に応じた最適な方法をご提案させて頂きますので、気軽にお問い合わせ下さい。