積極的な賃上げを行った場合の優遇税制が拡充されたって…
賃上げ促進税制の拡充
令和4年度の税制改正において「賃上げ促進税制」が拡充されることとなりました。
企業側は賃金を上げることによって税務上の優遇を受けることができ、従業員側は賃金が上がったことにより消費意欲が向上する。
その結果として、経済成長が促進するというのが賃上げ促進税制の狙いであり、岸田政権が掲げる「成長と分配の好循環」という経済政策がその根底にあります。
そこで今回は、「中小企業向け賃上げ促進税制」の概要と令和4年度改正による変更点についてご紹介したいと思います。
賃上げ促進税制とは
中小企業向け賃上げ促進税制とは、青色申告書を提出する中小企業者等が従業員に支払う給与等を前年度より増加させた場合に、その増加額のうち一定割合を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除することができるという制度です。
また、人的資本経営の観点から、給与等の増加率が高く、かつ、従業員の教育訓練のための支出(以下、「教育訓練費」という。)が前年度より一定割合増加している場合には、税額控除額が上乗せされる仕組みになっています。
適用要件(現行制度)
1.通常要件
中小企業向け賃上げ促進税制の適用を受けるためには、次の(1)および(2)の要件を満たす必要があります。
(1)国内雇用者に給与等を支給すること。
(2)国内雇用者への給与等が前年比1.5%以上増加していること。
注1 前年度の給与支給額が0円である場合には、要件を満たさないものとされます。
注2 法人の役員と特殊の関係のある者等の一定の者は、国内雇用者から除かれます。
2.上乗せ要件
次の(3)および(4)の要件を満たす場合には、中小企業向け賃上げ促進税制の上乗せ控除を受けることができます。
(3)国内雇用者への給与等が前年比2.5%以上増加していること。
(4)次のいずれかの要件を満たすこと。
①教育訓練費が前年度と比べて10%以上増加していること。
②その中小企業者等が、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、経営力向上が確実に行われたことにつき一定の証明がされたものであること。
税額控除額(現行制度)
前述の中小企業向け賃上げ促進税制の通常要件を満たす場合には、給与等の増加額の15%を法人税(所得税)から控除することができます。
また、上乗せ要件も満たす場合には、税額控除率が10%上乗せされ、給与等の増加額の25%を法人税(所得税)から控除することができます。
ただし、計算した税額控除額が、その適用年度の調整前法人税額(調整前事業所得税額)の20%相当額を超える場合には、その20%相当額が税額控除額の上限となります。
令和4年度改正点
中小企業向け賃上げ促進税制は、令和4年度改正(法人は令和4年4月1日以後開始事業年度分から、個人事業主は令和5年度分から適用)によって、次のとおり上乗せ要件が簡素化され、その控除率が引き上げられました。
1.通常要件
国内雇用者への給与等が前年比1.5%以上増加
→給与等の増加額の15%を法人税(所得税)から控除
2.上乗せ要件①
国内雇用者への給与等が前年比2.5%以上増加
→税額控除率を15%上乗せ
3.上乗せ要件②
教育訓練費が前年度と比べて10%以上増加
→税額控除率を10%上乗せ
つまり、上乗せ要件①と上乗せ要件②の両方の要件を満たした場合、最大で40%の税額控除を受けることが可能となります。
また、これまで「添付義務」があった教育訓練費増加要件に係る明細書については「保存義務」へと要件を緩和する一方、経営力向上要件は廃止されました。
最後に
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
今回ご紹介した賃上げ促進税制の上乗せ要件にもあるように、単純に賃上げだけを行うのではなく、従業員の職務に必要な技術または知識を習得させ、または向上させるために支出する費用の意義を見出し、税制特例を有効に活用しつつ企業価値向上に努めて頂ければと思います。
コラム説明
この記事は、自動車流通新聞(グーネット自動車流通)さんで連載しているコラムの内容を転載したものです。
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