領収書のない経費も認められるって…
領収書の役割
領収書とは「商品やサービスに対して金銭を支払った事実」を証明するための公的な書類であり、領収書を発行した側としても「商品やサービスの対価として確実に代金を受け取った事実」の証明になる書類です。
経理実務ではつい軽く見られてしまいがちな領収書ですが、領収書さえあればどんな支出であっても経費として認められる訳ではありません。
税務調査で領収書の内容について指摘を受けるケースは非常に多く、反面調査といってその領収書を作成した相手先にも調査が及ぶこともありますので、今回はこの領収書の取り扱いについて確認していきたいと思います。
上様宛の領収書
一昔前までは「上様」とだけ書かれた領収書がまかり通っていましたが、これは領収書として認められません。
例えば、複数の会社を経営しているようなケースでは、利益が出ている会社に上様領収書を振り分けることで利益操作をしたり、他人から上様領収書を集めてきて会社の経費にすることも可能となってしまうからです。
税務調査では、上様領収書は必ずチェックの対象になり、不正があると判断されると、支出した金額は損金と認められず、相応の罰則を受けることとなります。
お品代の領収書
領収書には、その使いみちが「但し書き」として書かれていますが、ここに「お品代として」と書かれている領収書が散見されます。
しかし、これでは何に使ったのかが分からず、特に金額が大きい場合には、税務調査のチェック対象となります。
また、手書きではなくレジシステムから購入明細と繋がって出力されるタイプの領収書を領収書部分だけ切り取って保存している場合も、購入明細を隠蔽する意図があると勘ぐられてしまうため、必ず切り離さずに保管しておく必要があります。
印紙のない領収書
領収書には、その記載金額に見合った収入印紙を貼ることが義務付けられていますが、仮に収入印紙が貼られていない領収書を受け取ったとしても、この領収書は収入印紙の有無に関わらず経費として認められます。
収入印紙を貼る義務があるのは領収書を発行する側であり、受け取った側で経費になるか否かには影響しません。
自社が領収書を発行する際には、収入印紙の貼付と消印を忘れないようにしましょう。
領収書の不正事例
前述のとおり税務調査では領収書の内容について指摘を受けるケースは非常に多く、不正の発覚が後を絶ちません。
これは中小企業に限った話ではなく、上場企業の社長が個人的な支出を会社経費としていたことで刑事事件に発展した事例もあるほどです。
飲み屋の領収書を買い集めて経費の水増しを図った事例、割勘で支払った飲食代の領収書を全額経費にした事例、領収書に記載された金額を改ざんした事例、金額の記載のない領収書をもらって自分で金額を記載した事例などなど、挙げればキリがありません。
そして最近特に多いのは、10万円未満(または30万円未満)の少額資産は即時費用として処理できるという税務規定を逆手に取って、高額な領収書を10万円未満の複数枚に分けて発行してもらっている事例です。
中古車販売店では、カーナビやカスタムパーツの代金について、お客様からこのような要求があることも想定されますが、くれぐれも不正の片棒を担ぐことの無いよう、ご注意ください。
領収書とレシートの違い
経費を請求する際には「領収書」のみが有効であるというイメージをお持ちの方も多いと思いますが、実務上は「レシート」でも特に問題はありません。
ただし、税務上の証憑として領収書が有効となるためには「取引年月日」「取引金額」「取引相手の名前」「購入した品物の名前」などがきちんと記載されている必要があり、コンビニなどのレシートには「取引相手の名前」が入らないので、やはり金額が大きい支払の場合には、別途領収書を発行してもらうと良いでしょう。
領収書と領収証との違い
いわゆる領収書には、「領収書」と書かれたものと「領収証」と書かれたものもが存在します。
厳密に言えば、領収書が「商品や金銭の受け取りの事実のみを記載した書類」であるのに対して、領収証は「金銭の受け取りを証明する書類」ということになりますが、実務上この2つの間に大きな差はありません。
税務上の取り扱いも同じであり、領収書という大きな枠の中に領収証も含まれているという認識で問題ないでしょう。
領収書がなくても費用にできる場合
最近ではほとんどのお店で領収書を発行してもらえますが、謝礼の支払いや割り勘での支払いなど、領収書をもらえないケースも少なからずあります。
このような場合、領収書がなければ経費として認められないかというと、必ずしもそうではありません。
やむを得ない理由で領収書が発行されなかった場合には、会社側で「出金伝票」や「支払証明書」などを作成し、「支払い日」「支払い金額」「支払い先の名前」「支払い内容」を記入することで、経費として認められます。
なお、「出金伝票」や「支払証明書」は会社内部で作成するものであるため、外部の者が発行する領収書と比較すると信頼性が高いとはいえませんので、きちんと必要事項を記入するよう注意が必要です。
インボイス制度と領収書
令和5年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートした場合、領収書に発行者の登録番号が記載されるなど、これまでとは領収書の記載項目が変わることとなります。
ここでは詳しい解説は割愛しますが、インボイス制度は、全ての事業者に影響しますので、それぞれが制度の内容を確認し、正しく理解しておくようにしましょう。
最後に
今回は領収書の取り扱いについて確認してきましたが、どの会社でも従業員に対しては、領収書のない支出や使途不明な支出の精算は認めていないはずですので、不正は起きづらく、問題視されることはほとんどありません。
一方、代表者(社長)や役員関連の支出については、社内チェックも甘くなる傾向にあるため、税務署のチェックも厳しくなります。
さらに、その支出内容が接待費や旅費などである場合には、接待の相手先の会社名と実際に接待した者の氏名などがきちんと記録に残っているか、旅行の目的や同行者などがきちんと記録に残っているかを確認されます。
そして、これらの記録がない場合には使途不明金となり、会社側で追徴課税を受けるだけでなく、個人側でも所得税・住民税の課税対象となるというダブルパンチになってしまうため、くれぐれもご注意頂ければと思います。
コラム説明
この記事は、自動車流通新聞(グーネット自動車流通)さんで連載しているコラムの内容を転載したものです。
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