自動車販売店では領収書を発行して収入印紙を貼るという業務は日常的に行われていますが、振込で支払ったお客様や、クレジットカード決済をされたお客様からも
『領収書ちょうだい♪』
と言われることもあるかと思います。
でも、収入印紙の負担などを考慮すると、あまり発行したくないというのが本音ですよね??
そこで今回は、いまさら人に聞けない「領収書の発行義務」と「収入印紙」について整理してみたいと思います。
領収書の発行目的と発行義務
領収書は、代金支払いの証明となる書類です。
買い手側からすると、キチンと代金を支払ったにもかかわらず、売り手側から「まだ受け取っていない」と言われることを防ぐ意味から、発行してもらわないと困る書類と言えます。
では、売り手側は必ず領収書を発行しなければならないのでしょうか?
その答えは「民法」という法律にあります。
民法 第486条
弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。
ちょっと法律っぽい言葉で書かれているので分かり辛いですが、
・弁済 → 代金の支払い
・受取証書 → 領収書
と読み替えると、
「代金の支払いをする人は、代金を支払う際に、代金を受取る人に対して領収書の発行を請求することができる」
ということになります。
つまり、売り手側は、買い手側から領収書の発行を依頼された場合には、発行する義務がある!ということになります。
(買い手側は、領収書の発行を拒否された場合には、代金の支払いを拒否することができます。)
ちなみに、前述の「民法 第486条」は、昨年に第2項が追加になったそうです。
民法 第486条2項
弁済をする者は、前項の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。
ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課するものであるときは、この限りでない。
受取側に負担が無いことを条件に、領収書の発行に代えて、その内容を記録した電子データの提供を請求することができるようになったのですね。
さすがに再発行は拒否してOK?
『領収書無くしちゃったから、再発行して♪』
お客様からこんな依頼を受けることもあるでしょう。
しかし、領収書の発行者に再発行する義務はありません。
そもそも領収書は、代金の支払証明という性質を持ち、代金の支払いと同時に発行されるものですので、いつでも何度でも領収書が発行できてしまうと、経費の水増しや二重請求などが起こる原因になってしまいます。
とはいえ、実務上は領収書の再発行を拒否しても
『困ってるから、何とか頼むよ~♪』
と言われてしまうと再発行せざるを得ないので、そのような場合には必ず
とスタンプを押して発行するようにしましょう。
ちなみに、再発行をした領収書にも「収入印紙」は必要です。
再発行した受取書(国税庁HPより)
【照会要旨】
当社では、得意先に商品を販売し、代金を受領した際に受取書を交付していましたが、得意先からその受取書を紛失してしまい、再発行して欲しい旨の要請がありましたので、再発行である旨を記載した受取書を発行することにしました。
この再発行する受取書は、前に適正に収入印紙を貼付した受取書を交付しておりますので、課税文書に該当しないと考えてよろしいでしょうか。
【回答要旨】
金銭又は有価証券の受取書とは、金銭又は有価証券の引渡しを受けた者がその受領事実を証明するために作成し、その引渡者に交付する単なる証拠証書をいいます。
そのため、金銭の受領が1回であっても、その受領事実を証明する目的で作成したものであれば、第17号文書(金銭又は有価証券の受取書)に該当することになります。
したがって、ご質問の再発行した受取書についても第17号文書に該当することになります。
なお、納税義務者は、再発行を要請した得意先ではなく、受取書の作成者となります。
【関係法令通達】
印紙税法基本通達第19条、別表第一 第17文書の1
現金以外での支払い場合の領収書の発行義務
ここまではニコニコ現金払いを前提で領収書の発行義務について整理してきましたが、現金以外で代金が支払われる場合にも、領収書の発行義務はあるのでしょうか?
「銀行振込」で支払った場合と、「クレジットカード決済」で支払った場合について見ていきたいと思います。
銀行振込と領収書
銀行振込で代金の支払いをする場合は、振込明細書や通帳印字が領収書の代わりとして使用されるケースが一般的ですが、ごくまれに
『振り込んだ分の領収書もちょうだい♪』
と頼まれることがあります。
このような場合、売り手側には領収書を発行する義務があるため、お客様から領収書発行の請求を受けた場合には、原則として、領収書を発行する必要があります。
でもやっぱり印紙代が勿体無いですよね。
なので、銀行振込について領収書の発行を行わない場合は、事前に「銀行振込明細書をもって領収書の発行に代える」といった取り決めをしておくと良いでしょう。
なお、銀行振込で受領した代金に対して領収書を発行する際には、必ず「〇月△日 銀行振込分」と明記するようにしましょう。
クレジットカード払いと領収書
クレジットカードでの支払いの場合は、直接の金銭のやり取りがあった訳ではなく、信販会社を間に挟んでの「信用取引」となるため、領収書の発行義務はありません。
また、お客様から要望があって領収書を発行する場合であっても、「〇月△日 クレジットカード利用分」と明記することで収入印紙の貼り付けも不必要となります。
クレジット販売の場合の領収書(国税庁HPより)
【照会要旨】
当社では、クレジットカードで買物をしたお客様に、クレジット利用伝票(お客様控)のほか、お客様の要望により、領収書を作成交付しています。
この領収書には、印紙を貼付する必要があるのでしょうか。
【回答要旨】
第17号の1文書(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書)は、金銭又は有価証券の受領事実を証明する目的で作成されるものです。
ご質問のように、クレジット販売の場合には、信用取引により商品を引き渡すものであり、その際の領収書であっても金銭又は有価証券の受領事実がありませんから、表題が「領収書」となっていても、第17号の1文書には該当しません。
したがって、この領収書には印紙を貼付する必要はありません。
なお、クレジットカード利用の場合であっても、その旨を「領収書」に記載しないと、第17号の1文書に該当することになります。
【関係法令通達】
印紙税法基本通達別表第一 第17号文書の1
ポイント整理
最後にポイントを整理しておきましょう。
□領収書の再発行義務はないが、再発行する場合には印紙が必要!
□銀行振込は依頼があったら発行義務があり、印紙も必要!
□クレカ決済の領収書は印紙不要!
□現金払い以外の領収書には必ず「銀行振込」「クレカ決済」である旨を明記する!
領収書は、そもそも「お客様との無用なトラブルを避けるため」に作成するものですので、“発行するしない”、“印紙を貼る貼らない”といった小競り合いにならないよう注意しましょう!