役員報酬は税金の負担だけを考慮して設定すべきって…
法人所得と役員報酬
役員報酬は、法人の課税所得(利益)の計算においては損金(費用)になる項目です。
その一方で、受け取った役員側では所得税・住民税や社会保険料の対象となるため、法人の課税所得と役員報酬は表裏一体の関係にあるといえます。
例えば、法人が生み出した所得の大半を役員報酬として支給することで法人税等の負担を減らすことはできますが、法人の資金繰りは圧迫され、役員個人の税金や社会保険料の負担が重くなってしまいます。
このように、法人の税負担やその法人の経営状態だけでなく、個人側の負担も含めて様々な要素を考慮して役員報酬を設定しなければならないため、多くの経営者にとって頭を悩ませるポイントとなるのです。
定期同額給与
役員報酬の設定を難しくしている一番の原因は、税法が定めている厳しいルールにあります。
税法上、損金として認められる役員報酬は「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3種類しかなく、このうち毎月役員に支給される役員報酬に該当するのが「定期同額給与」です。
定期同額給与は、税務署への届出などは不要ですが、毎月一定の時期に同額を支給する必要があるため、従業員の残業代や歩合給などのような加算は認められません。
さらに、報酬額を変更できるのは、原則として年に1度、事業年度開始(期首)から3か月以内の時期だけと決められているため、前期の決算申告が完了すると同時に、新たな事業年度の業績を予測し、報酬額を決めなければなりません。
利益を分けるという感覚
中小企業において役員報酬の設定をする際には、事業で得た利益を「法人」と「個人(役員)」で分けるという感覚を持つのが良いと思います。
例えば、1,000万円の事業利益を半分ずつ分ける場合には、役員報酬を500万円に設定し、残った500万円が法人の利益となります。
そして、法人の利益には法人税等が、個人の役員報酬には所得税などが課税され、それぞれ税金などを支払った後の金額が手元に残ることになります。
税率差による検討
中小法人の法人税の税率は、課税所得が800万円を超えると大きく上昇し、個人の所得税率も課税所得が多くなるほど税率が5%~45%の範囲で高くなる仕組みになっています。
ネット情報や節税に関する書籍などでは、この税率差をメインに考えて役員報酬を設定することが推奨されていますが、役員報酬を税金の負担だけを考えて設定することは、必ずしも最善な方法とはいえません。
法人は育てるもの
役員報酬を設定する際、税負担を考慮することももちろん大切なことですが、それだけでは経営者が決死の覚悟で設立した法人は育っていきません。
例えば、中古車販売店を開業したばかりの新設法人の場合は、法人の財務体力作りを優先して法人側に資金を貯えていくべきですし、反対に長期に渡って安定的な経営を継続し貯えが十分な法人の場合は、税負担も考慮しつつ、役員がしっかりと報酬を取っても良いでしょう。
市場の状況、後継者の有無、会社を経営している目的など、様々な状況を考慮し、法人と個人のどちらに優先的に資金を残す(貯える)べき局面かを常に考えて役員報酬を設定することで、法人は理想のペースで理想の規模に育っていくのです。
コラム説明
この記事は、自動車流通新聞(グーネット自動車流通)さんで連載しているコラムの内容を転載したものです。
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