融資のために決算書は「見栄え重視」で作成すべきって…
決算書は誰のために作る?
決算書とは、会社の利益や経営状況を示す書類ですが、「報告書」と「成績表」の2つ意味合いを持っています。
前者の観点からは、株主や債権者に対して適正な決算数値の開示を行うために、一定のルールに基づいて決算書を作成する必要があり、後者の観点からは、自社の業績を的確に把握できるよう、自社の経理処理方針などを明確にしておく必要があります。
なお、確定申告の際には所轄税務署にも決算書を提出しますが、税務署では「顕著な増減」があった項目を中心にチェックを行うため、経理処理方針の変更は必要な範囲に留め、無闇に変えないように心掛けると良いでしょう。
見栄え重視の決算書
インターネットで「融資 決算書」と検索すると、融資に強い「見栄え重視の決算書」の作り方や銀行との交渉を優位に進める方法について説明されています。
例えば「これまで“販管費”で処理していた項目を“特別損失”に変更して営業利益・経常利益を大きくみせましょう」とか「これまで“営業外収益“や“特別利益”で処理していた項目を“売上”に変更して営業利益を大きくみせましょう」など、会社の中身は変わっていないけれども、決算書の“見栄え”を良くする方法や、金融機関に提出する書類範囲を一部制限して、なるべく手の内を見せないようにする方法などです。
しかし、仮に「融資に強い決算書」が作成できたとしても、いくらでも無限にお金を借りることができる訳ではありません。
また、本来の経営状態や事業計画に基づかない多額の融資を受けてしまったら、その会社は潰れることでしょう。
お金を借りる目的は、“安定的な経営を行うこと”であることを、くれぐれも忘れないようにして下さい。
※融資に強い〇〇にご注意を※
最近増えている「融資に強い税理士」や「融資に強いコンサルタント」という方々は、お金を借りさせることで報酬を得るという仕事をしています。
しかし、実際にお金を借りるのは事業者(経営者)である皆様です。
決してお金を借りることがゴールではなく、借りたお金で事業を成功へと導くことがゴールであるということをくれぐれも忘れないでください!
金融機関との付き合い方
前述の「見栄え重視の決算書」というのは、金融機関における自社の格付けを上げるという意味では一定のメリットがありますし、手の内を見せずに交渉することも決して悪いことではありません。
しかし、銀行や信用金庫・信用組合といった金融機関は、国の機関ではなくあくまでも営利を目的とした民間企業であり、融資担当者も1人の人間、支店長も1人の人間です。
AIが数字分析をして融資判断を行っている訳ではなく、また、お金というのは駆け引きをしながら借りるものでもありません。
実際に現場で融資を実行するのは民間企業であり、そこで働いているのは血の通った人間であるということ念頭に置いて、金融機関と良好な「お・つ・き・あ・い」をしていくことが大切なのです。
お付き合いのポイント
それでは、金融機関と良いお付き合いをしていくためには、具体的に何をすれば良いのでしょうか?
ここではお付き合いのポイントをいくつかご紹介しますので、実行できるものから取り入れて頂ければと思います。
(1)金融機関選び
まず始めに重要になってくるのが相手先選びです。
メガバンク、地方銀行、信用金庫などの特徴をよく理解し、自社の規模や取引内容に合った金融機関を選びましょう。
また、1つの金融機関としか取引をしていない場合、その金融機関で融資を受けることができなかった際には、ゼロから違う金融機関を探すのに時間を要してしまうので、普段から融資を受けている金融機関以外の金融機関とも取引をしておいた方が良いでしょう。
取引といっても、融資を申し込む訳ではなく、預金口座を開設して、売上代金の入金先の1つとして利用するだけで十分です。
きちんと店舗を構えている中古車販売店の場合、おそらく、その金融機関の融資担当者が営業に来てくれることでしょう。
(2)顔出しと“ほう・れん・そう”
世間一般的には、銀行の担当が定期的に会社に顔を出すものと思われていますが、こちらからどんどん銀行へ顔を出しましょう。
月次試算表などを持って融資係を訪ねることで、担当者以外にも会社のプレゼンを行うことができ、今後の融資取引が円滑になります。
なお、金融機関には悪い情報は隠して、良い情報だけを報告すれば良いと聞いたことのある方も多いと思いますが、それでは金融機関からの信頼を得ることはできません。
悪い情報も、改善案と一緒に正直に報告することで、金融機関から信用を得ることへと繋がっていくのです。
(3)担当者変更は頑張り時
金融機関では、定期的に配置転換が行われるため、担当者や支店長が変わることは日常茶飯事で、自社のことを良く知り親身になって相談に乗って下さっていた方がいなくなることは会社にとってマイナスです。
ゼロから信頼関係を築くことは大変なことですが、そんな時こそ頑張り時であり、自社アピールの最大のチャンスとも言えます。
担当者や支店長が変更になった際には、自社のことを良く知ってもらえるよう、積極的にコミュニケーションを取ってプレゼンをしましょう。
(4)ギブアンドテイク
良いお付き合いの基本は「ギブアンドテイク」の精神です。
テイク(融資を受ける)だけでは金融機関と良い関係は築けませんので、積極的にギブしていきましょう。
例えば、定期預金口座を開設したり、金融商品や保険商品の販売に協力するなど担当者の営業成績に配慮すると良いでしょう。
また、金融機関が主催しているセミナーや地域イベントに積極的に参加するのも、前述の「顔出し」にも繋がるためオススメです。
結局は人間関係
今回は金融機関から融資を受ける際のスタンスや金融機関とのお付き合いのポイントについてご紹介しましたが、「企業と金融機関」という関係性ではなく、結局は「人間関係」を構築できるかが重要であるということがお分かり頂けたかと思います。
繰り返しとなりますが、金融機関の担当者も1人の人間です。
お金を借りたい時だけ融資交渉をしてくる会社より日ごろから良い信頼関係が築けている会社への融資に一生懸命になってくれるはずです。
ぜひとも、見栄え重視の決算書を作ることや、手の内を隠して金融機関との交渉を有利に進めることに注力する時間を、金融機関との関係作りに使って、将来の資金調達リスクを回避し、安定した経営を行って頂きたいと思います。
コラム説明
この記事は、自動車流通新聞(グーネット自動車流通)さんで連載しているコラムの内容を転載したものです。
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